この後どうなるのか展開に目が離せない、そういったハラハラドキドキが物語に必須の要素でないことを今江文学は教えてくれる。物語世界にずっと浸っていたい。終わってほしくない。そんな傑作小説を今江祥智は何作も書いている。
真っ先に思い浮かぶのは「私の彼氏」と「袂のなかで」。「面白い」という形容は適当ではないように思う。だがしかしだがしかし、これこそが今江文学だとも思うのだ。（ちなみに前者の表紙絵は宇野亜喜良、後者は長新太。いずれも今江祥智のベストパートナー。）
性急に「解答」を求めがちな二十歳前後の頃に自分がこの作家にのめり込んだのは、奇妙といえば奇妙。「単刀直入」といったものからもっとも遠くにあるような今江文学に、じわりじわりと惹かれていった。
上に挙げた２作、あらすじはと聞かれても、あらすじなんてあるのか、これ。「私の彼氏」は絶版ということもあってかネット上にはごく短い感想が散見される程度だが、どれも概ね好意的。一方「袂のなかで」にはかなり戸惑った読み手が多いようだ。中には主人公の夫が次々と愛人を囲うのを「老人のわがままな願望にすぎない」なんてひどい読み違いをして腐しているのもいる。
「袂のなかで」は続編の構想もあったようだ。
