重松清

今年に入って初めて読んだ字ばかりの本が、人から薦められた重松清の「ナイフ」。続いて「リビング」「日曜日の夕刊」と、2月から3月にかけての約1ヶ月で3冊という無茶なペースで読む。つまり面白かったわけだ。
実は元々の推薦は「卒業」。なんでも「作風は違うのになぜか読後感が灰谷健次郎に似ている」だそうで、灰谷文学にはまっていた私に読んでみろ、と。「とてもいいから読め」というより「どう感じるか読んでみてくれ」という感じ。それをようやく読んだのが5月。1〜5月の間に4冊というのは、私としては例年通りの読書ペースだが、それが全て重松清。いやとんでもない作家がいたものだ。

ナイフ

ナイフ (新潮文庫)

ナイフ (新潮文庫)

短編集。テーマはいじめ。
現実でいじめがきれいな形で解決するケースがどれだけあるだろう。「金八先生」で描かれたいじめ問題に食い足りなさを感じたならこれを読むべし。といっても、いじめに直面した教師のありようを描いた物語ではありません。

リビング

リビング (中公文庫)

リビング (中公文庫)

短編集。DINKSの夫婦がひとつの軸に。
DINKSというライフスタイルを自ら選んだ二人。周囲の「普通の家庭」を営む人達の美的感覚の欠如、見識の低さ、無神経さに辟易する一方で、彼ら彼女らの生き方が実は「正しい」のではないかと、自分達の生活のありように不安を抱くようにもなる。
しかしこれはアンチDINKSの物語ではない。肯定も否定もしない。ただ、DINKSの夫婦が直面する(かも知れない)葛藤がリアルに描かれる。そこがいい。

日曜日の夕刊

日曜日の夕刊 (新潮文庫)

日曜日の夕刊 (新潮文庫)

短編集。コメディタッチの物語が多く、これまで読んだ4冊の中では最も楽に読める。といってもズシリと来る物語もある。
太宰治ネタの物語には笑った。人はこのように太宰にはまる。らしい。読んでみるかな……。

卒業

卒業 (新潮文庫)

卒業 (新潮文庫)

短編集。
以下、薦めてくれた知人に伝えた感想、というより私の感じた灰谷文学との重なり。

この短編集に関しては多かれ少なかれ「懺悔小説」という共通項はあるんじゃないですか。懺悔懺悔、でも向日的というのは灰谷的。けれども灰谷文学よりリアルで、啓蒙心が鼻につくこともない。灰谷文学の発展形みたいに思えたものもありましたよ。

これは収められている4篇中3篇を読み終えた時点で書いたもの。
あとがきにはこうあった。我が意を得たり、とちょっぴり自慢。

雑誌初出時にも単行本刊行時にも意識していなかったのだが、四編はいずれも「ゆるす/ゆるされる」の構図を持っていた。

私が読んだ4冊は、どれもその向日性がいい。喪失、悔恨、絶望、シラケ、それらを決してないがしろにせずになお貫かれる、マッチョでない向日性が。「ナイフ」のあとがきによれば、かつての作品はそうではなかったというから驚きだ。
既に手許には5冊目「エイジ」がある。読むのはだいぶ先になるだろう。