津森あかねライブ in ぺてぃすこす

およそ半年ぶりのぺてぃすこすでのライブ。定員15名。恐らく津森あかねのライブとしては最小規模の部類に入る。至近距離&マイクなしという贅沢きわまるライブだが料金は高くない。
ここでのライブには毎回のように来ているという人も多いが初めてという人もいる。今回はそれがはっきり分かれていたように思う。そんな時ファディスタは誰に向かってどんな気構えで唄うのだろうかと余計な興味を抱きつつ聴いていた。常連だらけという環境だからできることもあるだろうし、かといって「一見さんお断り」の雰囲気になるのは本意ではないだろう。
今江祥智は、講演会では会場内でもっとも感度のいい人を探し、その人に向かって話すというようなことを作中(フィクション)で語っている。また、高名かつ高齢なあるバイオリニストは、会場内に好みの女性を見付け、その女性を見つめながら演奏するという。無論津森あかねはそのどちらでもない。これこれこういうのを実践しているのだという話をライブ後に聴くことができ、これまた興味深かった。やや話が観念的で、具体的にどうするというところまでは聞かずじまいだったけれど。


開演前に客席を回る津森さん。「リクエストはないですか。」ないです。ファドの曲でんでん知りません。ここでマドレデウスのレパートリーを口にしたところで却下されるのが関の山。悔しいので、というわけではないがギターの水谷氏にあるギター曲のことを話したら、結果としてリクエストした格好に。といっても演奏されるとしても先のこと。しかしファドライブにはどう考えても合わんな。
その水谷氏、セカンドステージでギターの定番「アルハンブラ宮殿の思い出」を演奏。プロによる演奏を生で聴くのは初めてかも知れない。思わぬ収穫。
また、初めての試みとして日本語によるファドが1曲唄われた。原詩のリズムを維持することにとことんこだわって(ポルトガル語→日本語では滅法難しい、らしい)作ったとのことで、確かに雰囲気がまったく崩れていない。ところどころ何と唄っているのかわからなかったが、後で聞いた話によれば漢語を多用しているという。日本語歌詞は今後更に練りこんで行くそうだ。
器楽曲の時に派手に食器の音を鳴らしてしまったのは私ですごめんなさい。


ライブ後「ここでのライブはリラックスムードですね」というようなことを不用意に言ったら、ミュージシャンの表情がやや不本意そうに見えた。何も考えず“適当に”やっているというような言い草に聞こえてしまったかも知れない。
四ツ谷マヌエルは店が広い分、色々な客がいる。雰囲気から何から蓋を開けてみなければわからない、という意味ではスリリング。ツボにはまると(2.28のように)緊張と熱気が凝縮されたステージになる。
一方ぺてぃすこすはざっくばらんな雰囲気で様々な試みもなされ、スリリングというより「面白い」。私個人の思いで言えば、成功・不成功という感覚すらない。演者がというよりも、客席がリラックスムードだと言うべきか。
同じ歌手・同じユニットでも、会場によって異なる顔が見えるものだ。マヌエル→toki→ぺてぃすこす、と毛色の違う会場でのライブを聴いて、印象の違いをひとり面白がっている。ツアーを連日追っかける根性はさすがにないが、あちこちの会場に足を運んでみるという楽しみ方も悪くはない気がする。


余談だが、アンコール曲「トニカ・ネグラ」。これは「トニカくネグラを探そう」というホームレスの唄である。というのはウソで、間奏部でファディスタが手拍子を促すのだが、これが2拍目4拍目(裏拍というのか?)。で、聴衆は1・3の人と2・4の人に分かれてワケワカラン状態に。超絶的リズム感を誇る私は当然パニックとなり、唄を聴くどころではなくなって途中で手拍子をやめる。
次からは演奏前に裏拍レッスンして下さい!(するかよ)