津森あかね in 西荻

西荻窪駅からほど近いカフェ(というのかな?)でファドライブ。荻窪という響きの懐かしさよ!
外から見ると、アパートのような建物の一室。店であることすら気付きにくい外観だが、中はくつろいだ雰囲気で快適。
COFFEE&EAT INN toki
いつものようにエスキーナ・ド・ソンの二人の伴奏で唄う。
津森あかねのレパートリーに「アルファマ」という曲がある(マドレデウスの「アルファーマ」とは別の曲)。実はこれ、私が彼女のアルバム「flor」の中で唯一その歌唱に手探り感をわずかに感じていた曲。けれども今日の歌唱にはそれを感じない。「手探り感」というのがそもそも私の気のせいなのかも知れないが、レコーディングから1年を経ての彼女の進化の表れのひとつなのかなとも思う。
そして二人の伴奏からは、常に端正な印象を受ける。名手だとのもっぱらの評判なのに(だからこそ?)「どうだ、うまいだろう」という弾き方を決してしない。コンスタントに笑いも取る(そういう問題か?)。


それはそうと、今日のライブは何かが違う。
そうだ、拍手のタイミングだよ。
ファドライブでは概して拍手が起こるのが早い。マナーが悪いのではなく、後奏が鳴り終わる前に拍手をしても興を削がれない曲が多いからである。
私は完全に鳴り終わるのを待つ癖が抜けないのと、曲の終わりがわからないことが多いのとで、拍手は遅れがち(別に困りはしない)。しかし今日の聴衆の拍手は更に遅い。いつ拍手をしたものか、明らかに戸惑っている。遅いからケシカランというのではなく、単純におやっと思った。
すぐにわかったことだが、この日の聴衆(満席です)は店の常連ばかりで、ファドを聴くのが初めてという人達だったのだ。月本氏が「この楽器(ポルトガルギター)を初めて見た人いますか」と言ったらほぼ全員が手を挙げた。
ファドってなんじゃらほいという空気の中でのライブというのも、それはそれで興味深い。聴衆の反応、感触を確かめつつ、押したり引いたりを繰り返す3人。聞けば、ファドを初めて聴く人達を前にしてのライブは、彼女達にとって珍しくないそうな。
なるほど、ぺてぃすこすやマヌエルでのライブのような熱気に包まれることはなかったものの、初めて聴くファドはそれぞれに好もしく感じられたらしく、CDを買って帰る人が何人もいた。
ただ、曲を唄い終えた後に(オーケストラの指揮者がやるように)フッと緊張を解いて見せるなどして曲の終わりをさりげなく伝えてくれれば、初めて聴く人の戸惑いを多少なりとも減らせるのではないかとは思った。
ともあれ、ファディスタの真正面の席でファドを満喫したひととき。
私の視界。

ファディスタ見えません。


でも伴奏の二人の姿はばっちり見えて幸せでした。
ワインも安くておいしかったし、いい店だ。しかし西荻はちと遠いな。