「SAIKO(サイコー)」という曲がある。
アフリカのカーボヴェルデ(ポルトガル語圏)で1960年代に生まれた歌。サビで日本語の「サイコー」が繰り返される。
これを松田美緒が日本に持ち帰り、日本語歌詞を加えたものをアルバム「アトランティカ」で発表したのが2005年。
この歌を聴くと、私はいつもディアマンテスのアルベルト城間を思い出す。日系ペルー人3世のこの歌手は、日本語「ガンバッテ」をスペイン語風にもじって歌にした「ガンバッテヤンド」でCDデビューを果たしている。
ネイティブの日本人でない人が日本語を取り入れて作詞すると、思わぬ効果を上げることがある。そうした名曲のひとつである「サイコー」を、いつかアルベルト城間に歌ってほしいとずっと思っていた。スペイン語とポルトガル語の違いこそあれ、彼にぴったりの曲だと思うのだ。
日本人でありながらポルトガル語の歌を中心に、世界を股にかけて活動する松田美緒。
ペルーで生まれ育って、演歌歌手を志して来日し、沖縄でロック歌手となったアルベルト城間。
ボーダーレスな音楽活動で異文化の橋渡しの役割を果たしているという点で、二人は似通っていると言えなくもない。ライブ会場でアルベルト氏と言葉を交わす機会があると、私は松田美緒のことをよく話題に出した。アルベルト氏はおおいに興味を持ち、CDを聴いてもくれた。一度は沖縄での松田美緒のライブに予約しながら、急用でキャンセルしたという無念のエピソードもある。
さてさて、いつどこでとはわけあって書けないが、私にとって千載一遇のチャンスがやって来た。
アルベルト城間のとある小さなライブで、事前(1ヶ月前)にリクエストが募集されたのだ。しかも「なんでもOK」。曲名の欄に、ダメ元で「サイコー」と記入した。曲の背景やら、アルベルト氏になぜ歌ってほしいかなども書き添えた。
そしてなんとなんと、これを歌ってくれたのだ。この日のライブのために、歌ったことのないリクエスト曲を多忙の間を縫って10曲くらい練習したそうだが、ポルトガル語の「サイコー」の準備には、とりわけ難儀したはずだ。他のリクエスト曲は「知ってはいたが歌うのは初めて」というものばかりだったようだが、この曲は聴いたことすら殆どなかったにちがいなく(せいぜいCDで1〜2度聴いた程度だろう)、もう嬉しいやら恐縮するやら。
人前でこれを歌うのはもちろんこの日が初めて。歌う様子はどことなく照れくさそうだったけれども反応はすこぶるよく、私以外は皆初めて聴くにもかかわらず、サビのところではサイコーサイコーの合唱に。
ちなみにリクエストコーナーでは、この曲が最初に歌われた。恐らく一番厄介な曲だったからだろう。とはいえアルベルト氏はおおいに気に入ったようで、「いい曲だね」と何度も言ってくれた。いつかまた聴かせてもらえるのではと、ちょっとだけ期待しておこう。今度はスペイン語でどうですか。