夕凪の街 桜の国(こうの史代)

第8回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞
第9回手塚治虫文化賞新生賞

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

総じて私は表情の描けない(描かない?)漫画家が苦手だ。たとえば諸星大二郎。たとえば大友克洋。たとえば安野モヨコ。異論はあろうが、これらの作家の描く表情が私にはどうにも無機質に見えるのだ。(それら全てを欠点と言い切る気はない。特に大友克洋が別の筆致で描いたらぶち壊しになるだろう。単純に私には合わないと言っているだけである。)昔ながらの記号のような表情描写には抵抗がないのだが。
一方、表情の描写に惹かれるのは山岸凉子西原理恵子やまだ紫こうの史代もこちらの枠に属する。いわゆる「激情」とは違う心の揺れを捉えた表情にハッとなる。(過剰な描写もまた苦手なのである。ここに挙げた作家達の作風は皆抑制が利いている。)
はじめ、えらいセンチな絵だと思いながら読んでいたのが、読み終えた時はこの漫画にはこの絵しかあり得ないように思えた。不思議。コマ運びの巧みさは1ページ目から際立っている。うまい。
ほんわかした画風、ほんわかした語り口、しかし語られる話は、登場人物の思いは……マイリマシタ。マイリマシタと言ったものの、後半はやや自分の中でサラッと流れてしまった感がある。明らかに、どう見ても大事な場面で「え〜、これ、何を言おうとしてるんでしょうか」とか。間を空けてまた読んでみようっと。