群れる女達

安野モヨコハッピーマニア」(全11巻)

ハッピー・マニア (フィールコミックスGOLD)

ハッピー・マニア (フィールコミックスGOLD)

人の薦めで読む。絵の好き嫌いの激しい私の常として、本を開いた瞬間ウゲッとなり、我慢しながら読み進める。まあ1冊100円だし。
が、なるほど傑作。それもかなりの。大雑把に説明してしまうと「ブリジット・ジョーンズの日記」を過激かつ奥深くしたような話。(あんな三文小説と一緒にするなと怒号が飛んで来そうだが“一緒”にする気は毛頭ない。あっちも嫌いではないが。)
傑作ではあるのだが、女性の「ウンウンわかる」的共感を惹起するであろうこの手の物語には、どこかモヤモヤした読後感が残る。
「結婚したって幸せになれるとは限らないしぃ〜、愛が感じられなくなるくらいならぁ〜、結婚しないでいっぱい恋した方がいいじゃ〜ん」なんて高校生が言うなら可愛げもあるが30女が言ったらお前バカかと。(結婚バンザイと言いたいわけではないので念のため。)それでも傑作と言い切れるのは、バカでもアホでも恋愛で陶然としたり傷付いたりの描写がいちいち真に迫っており、それでいてコメディタッチで滑稽に描かれているため常に読み手に醒めた視線を持たせているから(でなきゃ男にゃ読めん)。
恋愛の甘い蜜を貪ることしか頭にない女。どこかで答えを見付けるのか、それとも蟻地獄でもがき続けるのか。そのあたりの処理の仕方もまた秀逸で、未読の人に悪いから具体的には書かないけど、とにかく秀逸なのだ。


「女性は群れる」というのが本当かどうかは知らないが、そうした生態を思わせる描写に(リアルなだけに)まずウンザリで、そこに「共感」する女性が世間にたんまりいるのかと思うと二重にウンザリ。(ちなみに群れるといってもこの漫画では主に親友1人。「つるむ」というべきか。)
男との出来事をいちいち女友達に仔細に報告する場面なんかを見ると、女の家に爆弾落としたくなるわけ。二人のことを二人のこととして留めておかない女達。言ってみれば、女同士の空間は「ねぐら」であり「前線基地」。男との空間は「戦場」。男との密な関わりを望む一方で、同時に自ら厚い壁をこしらえるというこの矛盾。勝負パンツとかいう、矛盾を象徴するかのようなクソ下らない単語まであるらしく、お前ら頭平気かいなと、ちょっと話がそれた。(注:この漫画にはこの単語は出ない。)
男同士で「この前あのオンナとさあ」なんて話すのはバカの証明みたいなものだが女同士だと風当たりが弱い。そうやってことあるごとに培養液に飛び込んで女同士傷を舐め合ってるから男とうまく行かんのだろう、などと自分を棚に上げて分別臭いことを思わず言いたくなるのだが、この漫画ちゃんとそれを主人公に気付かせてるのね。しかもその場面が目一杯ギャグ調で説教臭さが皆無。やはりひとかたならぬ作品なのである。
それに、男にのめり込む女の様子に、友達が「だぁ〜めだこりゃ〜」という視線を向けるという構図によって物語のバランスが維持されている面もある。そもそも女の生態を描いた漫画を読んでその生態が気に入らないと難癖をつけたところで作品の評価は揺るぎもしない。ただ自分には(物語に引き込まれつつも)読んでいて心地よいばかりの漫画ではなかったと言いたいのだ。


「紛う方なき傑作。しかし……。」これは女性の側に立った物語を読んだ時に私がよく覚える感想。そうした漫画をわざわざ語ったのにはわけがある。
↓これ。

西原理恵子「パーマネント野ばら」

パーマネント野ばら

パーマネント野ばら

傑作。以上。
で終わらせたいくらいマイリマシタな作品なのだが読んだばかりの「ハッピーマニア」との対比、それも作品の対比でなく私の読後感の対比が不思議というかなんというか。
この作品の女性も群れる。「ハッピーマニア」の数倍強固に群れる。あけすけな会話。傷の舐め合い。ではウンザリしたか? しない。まったくしない。
それは多分、群れることが彼女らにとって「生きるためのたったひとつの道」のように思えるから。「人間いかに生くべきか」なんてお題目が入り込む余地はそこにはない。これは「生き抜こうとする女達」の物語だから。
のっぴきならない暮らしだと、なるほど女はこんな風に群れる。群れる以外にどうせいっちゅうんじゃと思う。一方、それがいけなかったのだと自分で気付くのが「ハッピーマニア」の主人公。
ハッピーマニア」は“女の側に立った、女のための漫画”という気がする。面白いことは面白いが、読んでいてなにやら女便所に迷い込んだような居心地の悪さを感じずにはいられない。しかし「パーマネント野ばら」にはそれがない。これだけ女性べったりに描かれているにもかかわらず「ウンウンわかる」的囲いで男性読者を締め出すことがない。だからどちらが上、なんて話に安易に結び付ける気はないが、私の読後感(読中感?)はまったく違うものだった。


どうも未消化だ。逐次修正しよう。