うまいもの食わせろ

食べ物についてはさほど贅沢をして育ったわけではない。が、妙なところにうるさい。その最たるはダシ。もしくはツユ。
かつおぶしを削り器でスコスコ削り、煮干しはひとつひとつ頭を取り、千枚通しで腹を裂いてハラワタを取り除く。ダシを取ったら醤油やらなにやらを加えてできあがり。一日仕事である。私がやるんじゃないですが。
これでそばを食べる。天ぷらを食べる。煮物を作る。
たまに外食すると……これが食えたもんじゃない。和食というのはつくづくごまかしの利かないものだと思う。もちろんおいしい店もある。一流の店にはうちの自家製なぞ太刀打ちできない。(そもそも我が家では、ある時期からは市販のちょっと高価なダシを加えるというずるをしているから、あまり偉そうなことは言えない。しかし市販のダシをそのまま使うよりはずっとおいしい、と思う。)
が、今までに「我が家」以外でおいしいと思ったことのない料理がある。
いなりずし。
スーパー、コンビニ、チェーンの寿司屋、そしてなぜか和菓子屋と、あちこちで食べられるが、どれも一口食べた途端に眉間にシワが寄る。
みんな、ああいうのがいなりずしだと思ってないか?
ふと思い立って、ネットでレシピを調べてみた。
あの、ひょっとしていなりずしってダシ使わない料理なの? うちが異常? と思ってしまうくらいにダシを使わないレシピが多い。
しかしちゃんと使っているレシピも結構ある。ということは、みんな家庭ではマトモないなりずしを食べているということだろうか。でも、それならスーパーのいなりずし平気で食べないよねえ。あのボテッと甘いだけの物体。あれで甘さを控えたら余計まずくなるのだろう。ダシが効いていないから。


いつの間にか、横浜に「泉平」なるいなりずしの店ができていた。6個で630円と、まともな値段。これは期待できるかと買ってみた。
なるほどダシが効いていて、スーパーのいなりずしとはわけが違う。が、食中毒防止のためなのか、異常に味が濃い。これをおかずに御飯が食べられそうなくらいに濃い。
大して大きいわけでもないのに、結局4個しか食べられず。味は悪くないだけに惜しい。
うまいいなりずし食わせろ。