4年も前に買った本を今頃読み始めた。まだ三分の一程度しか読んでいないが、いやもう素晴らしい。
今江祥智「ひげがあろうが なかろうが」
- 作者: 今江祥智,田島征三
- 出版社/メーカー: 解放出版社
- 発売日: 2007/12/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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傑作・名作には、その作品に決定的に引きつけられる場面というものがある。この作品の場合はここ。主人公は「たけ」という男の子。
腹ごなしに、はこんできた木を割った。
ばしん! びしん! がっつん。
音立てて、割れてくれる。
お母が、横で見ていて、
―おもしろそう……。
というので鉈を渡すと、お母はたけとかわって鉈をふりあげ、ふりおろした。すると、木のやつは、
すとっ、すぱん、すわん。
まるで、自分から割れているような音なのである。お母のはまるで豆腐でも切っとるみたいよ。
も少し先までが重要なのだが長くなりすぎるので引用はここまで。
さりげなく「技」を見せる大人と、それをじっと観察してものにして行く子供。と説明してしまうと、ありきたりの場面のようだが、懐の深い大人と、全身を目にして食らい付く子供との間の無言のやりとりは、えもいわれぬ緊張や充足に満ちている。大人達の「達人」ぶりが際立っているから尚更だ。セリフでくどくどと説明するタイプの作家には到底辿り着けぬ境地。
こんな場面を読んでしまったらもうイチコロ(死語)である。