石井いさみ「750ライダー」2

750ライダー」を全巻読破。

750ライダー(15)

750ライダー(15)

むむむ、思った以上に……よかった。
当初は陰のある主人公とストーリーだったのが、4〜5巻あたりからだろうか、徐々に健康的な作風に変わって行った。
さて私がはるか昔に読んだのはどうやら25巻まで。ところが、20巻を過ぎたあたりから、記憶に残っていない回がいくつもある。(未読だった巻もあるようだが、それだけではない。)
つまり印象が薄くなっていったのだ。
たとえばこんな話。


9月新学期。担任教師やクラスメート達と再会。
放課後、行きつけの喫茶店で仲良し3人組(主人公、男友達、ヒロイン)+マスターでバカ話。
主人公アルバイトへ。バイクで集金中にヒロインとバッタリ。
バイト後また喫茶店に揃う3人。ヒロインの手土産の鈴虫の音に耳を傾け「秋ですね!!」。
おしまい。


この何も起きない物語はなんだろう。
当初は暴走族に勝負を挑まれるとか、不良グループに絡まれるとか、クラスメートが道を踏み外しかけるとか、各話の軸となるハプニングがなにかしら起きていた。それが次第に小さな出来事が多くなり、時にはまるっきり何も起きなかったりするように変わっていった。上に紹介した回などは生活スケッチさながら。
この漫画では、季節の移ろいが丁寧に描かれており、石井いさみ独特のクサい詩に1ページ費やされたりする。(COMに「イラスト詩」なるものを連載したこともあるらしい。)
四季を通じての高校生達の<何気ない生活の一コマ>の積み重ねあるいは羅列。少年漫画誌(チャンピオン)にこんな漫画が9年あまりも連載されていたというのは、実はすごいことなのかも知れない。

序盤は重苦しい話が多くインパクトはあるが、話にいい加減なところも多く「昔の漫画だなあ」というのが再読しての率直な感想。
作風を変えて20巻くらいまでは、サワヤカさとハプニングがほどよく溶け合い、ノっていた時期なのではないかと思う。
そしてそれ以降になると、ハプニング色すらも薄まって行く。考えてみれば、バイクにまつわるハプニングなんてバリエーションが知れている。レースに出ようというのでもないから目標もない。では一体何を描けばいいのか。
(つづく)